「今日はあなたの卵巣を摘出します。」
渕田主任がいった。

わたしにはそんなことをされる理由がわからなかった。
なぜ?どうして?そんなことをされなくちゃならないの?

「あなたが、肉体的苦痛だけでなく精神的苦痛によっても快楽物質を分泌できるかどうか調べるのです。もちろん摘出するのは片方だけにしておきますよ。」

いや!いや!絶対にいや!

切られた傷は元の通りになるけれども、摘出なんてされてしまったら取り返しがつかないじゃない。そんなの契約にはないわ。私の身体の一部が、永遠に失われるなんて!

「大丈夫ですよ。契約書どうりの違約金はお支払いします。」

どうしても私の卵巣を切り取るつもりなんだ!
・・・でも、私には実験を拒否することはできない。実験拒否の違約金を払うことができない。私の卵巣は切り取られてしまうんだ。

「はじめますよ。『ああ、私の卵巣が切り取られてしまう。』とか思って、自虐的な気分を盛り上げておいてください。」

私はまた、新しい機械に固定された。
機械からはたくさんの触手みたいにぐねぐね動くコードが出ていてその先端にはメスとか、ピンセットみたいのとかレンズとかついてる。

やっぱり麻酔はしないんだ。

メスの付いているコードの一本が私の下腹部をなでた。
私のおなかを裂いて侵入したメスの跡に血の玉が浮く。
鋭い痛みは何度も経験したものだったけれど、その傷口をフックみたいなものがついたコードが広げた。
私の全身が緊張する。おなかに力が入ってしまう。

傷口からまるいものが盛り上がってきた。

あれは?・・・あれは私の子宮なの?

本当はもっと奥にあるものだけど、私のあそこから入ってるコードが、押し上げてるんだ。
三本の指のついたコードが、傷と子宮の間に入り込む。と、何か小さな塊を引っ張り出した。

「いいかね千佳子さん。切るよ。」
「いやあああああぁぁぁっ!」

渕田主任がにんまりと笑っている顔が脳裏に浮かぶ。
そして、子宮から伸びている卵管を、メスが切断した。

卵巣は、私のからだから離れてしまった・・・。
失われてしまった・・・。

「あ・・・あ・・・あああぁぁ。」
私の身体を深い喪失感が満たす。
絶望が、腰から背筋を駆け登り、全身をしびれさせた。

それは、快楽だったのだろうか・・・。

数日すぎて、傷のいえた私は、あの時のことを思い返して下腹部をそっと押さえてみる。自分でもよくわからないが、ひとつの卵巣はもうない。
渕田主任はすごくうれしそうに摘出した卵巣をメスで割り裂き、中の卵子を見つめていた。

ひとつの禁忌が実行されてしまった・・・。
わたしはこれからどうなってしまうのだろう・・・。