千佳子が研究所をやめてから数日がたった。
平穏な日々が続いている。研究所でもらった報酬は相当なもので、千佳子が一生暮らしていくのに十分だった。
これから毎日何をしていよう?
・・・彼氏でもつくろうか?
そう思ったときに、浮かんできた主任の顔を千佳子は慌てて打ち消した。確かにあの人が自分の内面を一番よく知ってるかもしれない・・・けど・・・変態だからな・・・。

学生時代の友達に連絡をつけた千佳子は久しぶりに羽目を外して騒いだ。
ああ、こういう毎日が帰ってきたんだ、普通の人の毎日だ。

かなり遅くなった帰り道、千佳子は暗がりに突然ひきこまれ、刺激臭のある薬品をかがされた。
そして、そのまま・・・意識は闇の中に落ちた。

頭ががんがんする。
薬の影響だろうか。声を出そうとしたが猿轡をかまされていて、うめき声のようなものしか出せない。
体もよく動かない。見えているのは天井だろうか。
誘拐?強姦? 自分の身に降りかかった災厄が信じられなかった。

「気がついたみたいだな。」

すこしずつ意識がはっきりしてくる。自分が全裸にされているのが分かった。
首を起こしてみると男が二人いた。
高坂さん…?
そのうちの一人は研究所の所員だった。千佳子の体を切り刻んだこともある人だ。
「不用心だね君は。自分の立場をわかっているのかい? 君の体は先端技術の宝庫だ。 他国のジェネレーターガールを欲しがる人はたくさんいるんだよ。」

「タカサカ、作業を先にしろ」
もう一人の男が言う、外国人だ。
棒のようなものをケースに入れている。あれ・・・あれは・・・人の腕だ。

え?

千佳子は首を巡らしてみた。

腕が無かった。

両腕が付け根から切り取られていた。

血の気を失い両目を見開いた千佳子に、高坂がいやらしい笑みを浮かべた。
「言ったろう?、欲しがる人がたくさんいるんで困るよ。身体の一部分だって、いい値で売れるんだ。そうだ、作業はもう少しかかるんだが、君は痛みで興奮するんだったな。
麻酔を中和してやるよ。」

激しい痛みが両肩と右腿にやってきた。
脚も切られてるんだ。

外国人の手に血まみれのノコギリが見えた。
残った千佳子の左足に当て、引き始める。
肉が引き裂かれる。メスで切られるのとはまったく違って、切られながら傷口をかき回されているようだ。

激しい痛みと恐怖の中で、千佳子の身体の奥が濡れてくる。
ノコギリは足の骨まで達し、ゴリゴリという振動が千佳子の身体に伝わってきた。
頬が上気し、瞳がとろんと濡れたようになる。

私はバラバラにされてしまうんだ。殺されるのかな…。自虐的な妄想が千佳子に更なる快楽を与えた。

外国人が珍しいものを見たような顔をする。
ノコギリを脚からはずし、女性器に縦に当てる。

一度引いただけで、千佳子のクリトリスは跡形も無くなり、膣の断面が見えた。
敏感な場所に与えられた刺激に、千佳子は絶頂を迎えた。
その時だ。
周囲が急に騒がしくなった。

高坂と外国人が慌てて周囲を見回す。
「タカサカ、ポリスだ!」

突入してきた警官隊に二人の男はすぐに取り押さえられた。

渕田が現れる。手錠をかけられたままうなだれる高坂を見下ろす。
「高坂、君がいくつかの情報を外に流していたのは気付いていた。しかし、ここまでやるとは思わなかった。・・・私の判断があまかった。
だが、国家機密に属する特殊ジェネレーターガールには、SELのエージェントがついている。退所してもね。 そううまくはいかないんだ。」

千佳子の猿轡がとかれる。
「主任・・・」千佳子の目から涙が落ちる。

「かわいそうにこんなにされてしまって・・・」
渕田が、心の底から哀れむような目を千佳子に向ける。

「でも、主任がきてくれたから・・・」
千佳子は安心していた。このくらいの傷、研究所での実験に比べたら何でもない。

だが、渕田は哀れむような表情をかえなかった。
「研究所の施設を使うことは出来ない・・・。君はもうSELの人間ではないんだ。国家機密に属する施設を部外者に使わせる事は出来ない。
私にはその権限が無いんだ。君を所内に入れる事さえも難しい。普通の病院にいくしかない。だが、そこではこの状態の手足も、身体も・・・もう・・・もとには・・・。」

再び千佳子の顔から血の気が引いた。
両腕も、両足も、女性の機能も失われてしまうのか。

「だが、私に出来る事が一つだけある・・・。」
渕田は言った。

「被研究用員をスカウトする事だ。」


あの人は私のからだが切られるのを待って、助けにきたんじゃないんだろうか・・・。

培養槽の中で、身体が治っていくむずがゆい痛みを感じながら千佳子は思った。
普通の生活をしていた数日間が夢の中の出来事のように感じられた。