私が死のうとしたときから一ヶ月がたちました。
私は結局死ねませんでした。当然ですよね。命を極限まで危うくする実験には何重もの
安全措置がしてありますから。

でも、あの日の火災でカテゴリーMのほんの僅かの秘密が世間に流出しました。
私達には日常茶飯事なことが、世間にはずいぶんショッキングだったようで、多くの
人々が糾弾されました。

それによって、カテゴリーMの閉鎖は決まってしまったのです。

私はあの時、すぐに賦活措置を受けたのですが、やはりトラブルのなかで若干の手順が
おくれ、障害が残ってしまいました。
脳の一番活性化していた部分。痛みによって、快楽を生み出す部分が酸素不足でダメージ
を受けてしまったのだそうです。

私はもう、痛みを快楽として感じられなくなりました。

普通の人より、痛みが苦手になってしまったんです。
カテゴリーMは閉鎖されてしまいましたが、もし、存続していたとしても私はここに
残ることはできなかったでしょう。

私はMの範疇から外れてしまったのですから。
主任は、その実験行為の一部が世間に露見してしまい、SELを退所してから行方不明
だそうです。
今どこでどうしているのか誰も知らないそうです。

最後のとき、私は主任を愛しいと思いました。でもそれは快楽を自分にくれる存在だった
からだけかもしれません。
いまは、あの日々が夢のようです。

普通になってしまった私には、これから普通の日々が始まります。
もう、私は普通の女の子です。
一生、日の当たる場所で暮らしてもいいのです。


でも今はまだ。

薄暗い闇のなかで、血にまみれているときの快楽を夢にみるのです。